ビートルズは活動前半期、ライブバンドとして世界各地でアイドル的な人気を誇った。しかし、やがて熱狂ゆえの混乱・暴動に巻き込まれる。
その苦悩ゆえか、ラブソングが中心であった初期の歌詞・曲調が一転し、哲学的・文学的表現を取り入れた歌詞や高度な芸術表現を追求する。その象徴的な曲の一つが1966年発表のアルバム『Revolver』に収録される「Tomorrow Never Knows」である。
「Tomorrow Never Knows」の歌詞は抽象的で難解である。その歌詞に影響を与えたとされるのが、『チベットの死者の書——サイケデリックバージョン』(ティモシー・リアリー、ラルフ・メツナー、リチャード・アルパート著、1964年刊行、1994年邦訳)である。
この書では、8世紀の仏教書をもとに、ドラッグによる自我の喪失と再生の理論が説かれている。この時期、ビートルズがLSDを使用していたことはよく知られているが、ジョン・レノンは、LSDで得た体験とこの書で説かれる理論を結びつけ、曲作りをしたとされる。曲調も多くのテープループ素材やそれを逆再生したものが用いられており、幻想的な世界観が表現されている。
ジョン・レノンは、プロデューサーのジョージ・マーティンに曲作りに際して抽象的な要望を出すことが多かったと言われているが、この曲についても、「ダライ・ラマが最も高い山頂から歌っている」ようなサウンドに、「たくさんの僧侶がお経を唱えているようなイメージで」とチベット仏教の世界観を表現しようとしていたとされている。