こうしたエピソードからわかるように、サイケデリック期のビートルズを象徴する曲に、ジョン・レノンが理解した仏教的世界観が影響している。
自我の喪失と再生を説くものとしてジョン・レノンは仏教にインスパイアされたのであろう。どうやらロックの世界には、自我の再生のためにドラッグの使用を勧める「サイケデリック・ブッダ」と呼ぶべきブッダがいるらしい。
しかし、仏教の歴史は、ドラッグの使用による救済を説いてはいない。どうもロックの世界に生きる仏教は、現代に再創造されたもののようである。
自我の喪失と再生を説く、ロックの世界に存在するブッダ——謎多き存在である。ロックの歴史には、たびたびこのような再創造された仏教が登場する。
仏教の哲学には納得がいくと言う無神論者を標榜するロックスターもいれば、内気な仏教徒と大量虐殺の比喩を用いて自分が抱えた痛みがいかに大きなものであったのかを歌い上げるロックの詩人もいる。
さらには、響きがいいからという理由でバンド名を涅槃とした者もいる…ロックスターに仏教解釈のことについて尋ねれば、きっとこう答えるのであろう——「かくのごとく、我聞けり」と。ロックスターたちが体得した仏教の教えとは何なのか。その歴史を辿るにはまだまだ謎が多いので、「序」として留めておくことにしよう。
宮部 峻 MIYABE Takashi
親鸞仏教センター嘱託研究員、立命館アジア太平洋大学准教授
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